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『喪服の男たち』のさわり




 記帳場所としてテントを張った後は花輪の設営だった。おれは黒ネクタイを肩に引っかけ、袖まくりして次々と力仕事を引き受けた。バイトとはいえ、よそよりずっと時給がいいからいつも張り切って動く。
「今日のは焼けた死体だ」
 社長に声をかけられた。もちろん喪服姿で、でんと突きだした腹をさすりながらタバコをくわえようとしている。
「言い方が悪いスよ、社長」
「まだ親族は来てないだろ。どうも、例の連続放火の被害者らしいぞ」
「へえ」
 通夜がはじまるとおれと社長は寺の門のそばまで下がって頭を垂れた。今夜は親族が記帳と香典の管理をしているから、葬儀屋のすることはあまりない。相当に沈んだ通夜で、話す声もろくにしなかった。通夜や葬式という場は普段付き合いの少ない者同士が数年ぶり、数十年ぶりの再会を果たす場所でもあるから、案外騒がしいのが普通なのだ。それが今夜はとくに静まりかえっていて、表の道路にはマスコミの姿も見えるが無理に押し入る様子もない。犯罪被害者の通夜ともなるといろいろ違うらしい。
「ん、まずいぞ」
 社長がつぶやいて寺の中をあごで指した。焼香の列の先頭で、親族らしい中年女性が棺の窓になっているところを開け、中を覗き込んでいた。
「アーッ!」
 シンとしていたところに絶叫して、近くの花を倒していた。倒れ込みはしなかったが、喪主一家も迷惑そうにしている。
「見ない方がいいのになあ」
 社長はまたつぶやくように言い、おれの肘を押した。
「え、おれッスか?」
「はやく行けって」
 しぶしぶ駆け寄って倒れた花瓶を元に戻した。その時、つい、目が泳いで棺の窓の方を見てしまったのだ。もちろん死に化粧を施されてはいるのだ。だが……。
「失礼します」
 おれは手を合わせてから棺の窓を閉じた。そしてすばやく焼香の列から離れた。社長はさっきより離れたところに移動していた。思わずにらむように見ると、手を合わせて片目を閉じている。まったく調子のいいおっさんだ。
「記帳はそこでいいのかな?」
 不意に話しかけられて振り返った。そこには喪服姿の三十代後半の男が一人立っていた。いかにもサラリーマンという雰囲気だし、髪型だって七三じゃないけど似たようなもので、顔や体型だって際立ったところはまるでない。
 なのに、すごく渋くてセクシーな男だった。
「はい、ええと、そうです」
「ありがとう」
 男はおれの目を見ながら軽く頭を下げ、テントの下に入っていった。どんな男でも喪服姿になるとシャキッとするし、落ち着いて見えるものだが、その人はとくに男を上げるタイプのようだ。
 いいモン見れたなあ。
 おれはうっとりして見送った。その人は記帳をすませると焼香の列に並び、神妙な面持ちで手をあわせ頭を下げた。そして寺から出て行こうとするが、そこでおれの方を振り返った。
 誰か知ってる人でもいたのかと思った。でもその時、おれのまわりには誰もいなかったのだ。あきらかにおれを見て一瞬だが笑顔を見せてくれた。その笑顔がまた渋いのだ。思わずニヤケ返すと、いつのまにかすぐそこに社長がいて声をかけてきた。
「どうかしたか?」
「いえ、な、なんでもないス」





こちらも未掲載の『喪服の男たち』のさわりとなります。
前後編の予定。
使ってもらえるのかどうなのか、定かじゃありませんが……。


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小玉オサム

Author:小玉オサム
ゲイ雑誌各誌に小説を送りつけ続けて、22年。
白髪の目立つ43歳。鼻毛にも白いものを発見! 鼻くその話じゃないよ。

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